20140216

チリの地震

そのあいだに実に美しい夜が降りた。
優しい香りに満ち溢れ、銀色に輝いて、ひっそりとして、詩人しかみられない夢のようだった。
いたるところ、谷の湧水沿いに、かすかな月明かりの中、
ひとびとが場所を決め、苔と葉でやわらかい寝床をつくり、苦しみに満ちた一日を休もうとしていた。
あわれな人たちはなお嘆いていて、ここの男は家を、あちらは妻子を、三番目はすべてを失ったと言うので、
ヘロニモとホセフェは濃いめの茂みに忍び入り、
自分たちの魂がひそかに歓喜の声を上げても誰も悲しませないようにした。
彼らは見事な石榴の木を見つけた。
香る果実をいっぱいにつけた枝が大きく広がっていた。
ナイチンゲールが梢の中で淫らな歌をさえずった。
ヘロニモとホセフェはこの幹にもたれることにして、
ホセフェはヘロニモのふところに、フィリップはホセフェのふところにもたれ、
ヘロニモの外套をかけて休んだ。
木の影が伸びていった、月光を散らしつつ、三人の向こうへ。
月が朝焼けに白むころ、彼らはようやく眠りに落ちた。
話は無限にあった。
修道院の庭のこと、監獄のこと、互いを思ってつらかったこと。
そして思えばとても心動かされた、
どれだけの悲惨がこの世界を襲わねばならなかったことだろう、
わたしたちが幸せになるために!


ハインリヒフォンクライストチリの地震」 翻訳:林立騎