子供の徴兵検査の日に/金子光晴                     


癩の宣告よりも
もっと絶望的なよび出し。
むりむたいに拉致されて
脅され、
誓わされ、
極印をおされた若いいのちの
整列にまじって、
僕の子供も立たされる。

どうだい。乾ちゃん。
かつての小騎士。
ヘレニズムのお前も
とうとう観念するほかはあるまい。
ながい塀のそっち側には
逃げ路はないぜ。
爪の垢ほどの自由だって、そこでは、
へそくりのようにかくし廻るわけにはゆかぬ。
だが柔弱で、はにかみやの子供は、
じぶんの殻にとじこもり
決してまぎれこむまいとしながら、
けずりたての板のような
まあたらしい裸で立っている。

父は、遠い、みえないところから
はらはらしながら、それをみつめている。
そしてうなずいている。
ほほえんでいる。
日本じゅうに氾濫している濁流のまんなかに
一本立っているほそい葦の茎のように、
身辺がおし流されて、いつのまにか
おもいもかけないところにじぶんがいる
そんな瀬のはやさのなかに
ながされもせずゆれている子供を、
盗まれたらかえってこない
一人息子の子供を、
子供がいなくなっては父親が
生きてゆく支えを失う、その子供を
とられまいと、うばい返そうと
愚痴な父親が喰入るように眺めている。
そして、子供のうしろ向の背が
子供のいつかいった言葉をささやく。
――だめだよ。助かりっこないさ。
この連中ときたらまったく
ヘロデの嬰児殺しみたいにもれなしで
革命会議(コンベンション)の判決みたいに気まぐれだからね。