20160208

戦地より2016

カラカラに渇いた喉のおかげで 僕は声を出せなかったけれども 薄れゆく意識の中で 頭上を軍用機が飛んでいった ゴゴウゴゴウと強い振動は 確かに鼓膜を揺さぶった


僕達は飯を食うので精一杯だ 奥さんは無事だろうか 子供達は怪我してないか、と 案じなければ 一服も出来ない 厄介な社会になってしまった

政府や国家は 他人同士は敵だ、と 煽ってくる が、僕達は脱穀機や唐箕 麦製品や油、そして金銭など 他人に厄介にならなくては とうてい飯が食えぬのに。

渇きすぎた喉が 唾を飲み込むのさえ 否定する

静けさが戻ってきた あまりの静寂に ジィーという音を錯覚する それは 遠くを飛ぶ軍用機に似ていた

アウンサンスーチーが笑顔をみせる

遠い昔に 負傷した足を引きずるように 歩く、小さくなった 誰かの祖父 誰かの兵士

あぁこれは僕の呼吸の風か

体内にこもった熱を なるべく吐き出すように 試みるが 渇きがそれを許さない

誰かが誰かを許さない

ダムの資材が溶けて流れる この小さな滝の水を 飲むことができればいいのに 身体が拒絶する のみこめやしない

目を閉じると 子供達の声が聞こえる それは 大きな寺の鐘の下で 上を向いて叫んだ声 が、反響しているような 声は 風

僕達は 家、に住んでいるので 気づかなかったのだが 寒くて生命を失う、ことも あるのだね 五輪の号令がかかり 家を持たぬ者たちは 排除される

寒い。寒い。 と声を出したくとも いかんせん喉が渇いて ひっついてしまった

白湯に生姜を擦って溶く 路地裏の曽祖母 彼女は オレンジ色の光だった

絶望していた、僕達は 二人とも僕だった 生きたいのだった 長男が恋をして子供を産んだり 次男がとんでもないことを やらかして謝りにいったり 彼等の想像すら出来ない、未来を 見続けたいのだった

吐く息が、白くなってきた 吐く息が、白くなってきた 眠らない彼等の声を聞いて 安心する なんだ、軍用機は どこへ飛んだのだ



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ふっと気が付いた という事は 気を失っていたのか 少し、体温が戻る 眠っていたのは 起きてからわかる

目を覚まさなければ 眠っていたことすら気づかない

銀色のスプーンは 前向きか横向きか後ろ向きか 手当たりしだい 匙を投げる これは武器の材料になる



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新月を拝む いつのまにか 旧正月がきていた