20210530

農道を歩く、振り返らずに

ただ暮らすための

暮らしを暮らす

暮らし終えたら

土に溶けるわたし

を夢にみる

雨と晴れを繰り返し

からだは無数の有機物となり

この星を構成し

他者の生命として活躍し

その役目を終えて

二度三度と

土に還る

ための暮らし

まいにち

陽は昇り

そして暮れ

露は落ち

立ち昇る





戦争や核や暴力や差別よりも手っ取り早い方法は食糧を総て奪うことだ。

種子を奪い、そして水源を奪うのだ。

土壌を汚染し、太陽さえ奪われるかもしれない。


産まれてくる生命は減少し、暮らすために働く力を失い

やがて菌やウィルスにも抵抗できずに滅亡してゆく。


抵抗するには、種を蒔くのだ。


支配でしか支配できない支配者たちが手に負えぬほどに、

無数の人々の手と手と手によって種を播くのだ。


そして、季節はわたしたちの味方である。


間違ってはならない。

季節を。

寒い冬がもたらす恩恵を。


種を蒔くのだ。

一刻も早く、一粒でも多く。


やがてその情報は電波に乗り伝播し、支配者の脅威となるだろう。


無数の人々が、播いた種が、芽が、花が、実が、

それらによって育まれる虫が、鳥が、動物たちが。


種を播け。

そして支配から解放されるのだ。


まだ間に合う。

想像せよ。


暖かい日が差す春を。

緑溢れる夏を。

収穫の秋を。


想像せよ。

そして、種を播け。






キッチンの小窓から

解体した小さな野菜が

所狭しと載る

使い古したまな板に

朝の光が差し込む


四合の happy hill と

二匙の 赤米が

精米機の中を回り

その身を削られる


この身を削る思いで

真夏の太陽の中で

削った草と

削って出た糠は

畑に積まれる


過去に摘まれた花や

収穫を終えたズッキーニの茎葉が

枯れて朽ちていたり

植え余った葱が定着していたりする

刈り草を積んだあたりに積まれる


刈り草を積んだあたり

のなかでも宮重大根と源助大根の畝の間のほう

草を刈るのも命の選別をしているようで

神様にでもなってしまったようで

とても躊躇していた時もあった


刈り草は晴れや雨に蒸れて

蛍になる

過去の人々はそう伝えていた

わたしにもそう伝わる

仕事は美しくなる


美しくなった仕事はやがて

暮らしに溶けてゆく


狩りに出かけた猟師と

獣道をすでに絞めた獣を

引き摺って降りる


美しくない

と敬遠される

美しい仕事が

剥いだ皮と肉で

共有される


共有される情報の結果は

分析され食糧に変換する

富は分配される


小窓から差し込んでいた光は

いつのまにか

ダイニングを差す強い光へと

大地は移動する


シャシャッと研いだ米と

山裾で汲んだ湧き水を

鉄の鍋で火にかける


行為は世界を変える

蛇口を捻るよりも

水汲みにかける時間を

自由と呼ぶ


時を同じくして

珈琲ポットの湧き水も火にかけ

焙煎した珈琲豆を測り入れた

ミルを廻す


遅くなく

速くなく


畝を立てる時も同様に

まずザッと草を刈り

障害となる根っこは

掘り起こして取り除く


草の根には余り執着はせぬが

笹の根には注意を払う


笹の根は放棄地から

段々畑の段差を無視し

時には溝も越え

地中三十センチほどの深度に

主根が張り巡らす

大地を突き破って

茎や葉が突き出すので

不耕起を放棄し

取り除いてゆく


あなたは不必要です

そう言い切る

インテリジェンスが失われた

生活から抜け出して


つまりその根を

食したり利用したりする知性を

改めて求めて問うて

暮らす

ということをくり返す

ということ


ほぐれた土は

立ち鎌やホーで

叩きながら畝を立ててゆく

端から端まで


遅くなく

速くなく


バタバタと動くと疲れるので

セッセと働く

道具の重さだけに

身を任せて振りかぶる


身体はなるべく柔らかく

そしてゆっくりと

コツコツと

コツコツと


遅くなく

速くなく

長く

永く


焙煎したばかりの

まだガスも抜けていない珈琲豆が

粗く挽かれて

円錐形のネルに調っており


ポットの湧水は

沸き出して

気泡が弾けて

湯気となり


注ぐと甘くフルーティーな珈琲の香り

のする湯気がたち


鉄鍋からは米の炊け始めた香り

のする湯気もたち


美しくなった仕事はやがて

土になってゆく


刈り草と

その他有機的な諸々

草群れて

土となり


ますます積まれ

また土に還ったころの

そのまた上に

積まれた刈り草は


電子音楽のような

ミニマルミュージックを幾重にも重ねて

とはいえ

思い思いのタイミングで鳴く

飛んだり跳んだりする

虫達の住処にもなる


わたしも暮らしを終えたら

やがて土になる


あの頃は気づかなかった当たり前の話

総ては土となるという事


わたしの身体が

動きを止め

呼吸を止め

生涯を終えた時には

土の中へ


快楽を貪る

全身を蟲に喰われる快感を


そして

わたしは虫になる


そもそも私達は虫けらと

同等の活躍を期待されて田圃に立つ


冬の間に場を整えて

春を待つ


山水をひいてくる水路を掃除し

埋もれた場所は掘り直して


昨年刈り取った

稲の株あとが残る

大地から生まれてくる

その他植物に抵抗し


ここ、と決めた場所を

溝を掘って

水で囲んだ苗床を作る


昨年刈り取った

稲から選別した種籾を

一粒ずつ一粒ずつ

苗床に蒔く


暫くして発芽した稲の芽を

その他植物から護る


一人前に育ってくると

一本づつ苗を移植する


田植えと呼ばれる仕事

稲の繁栄のために

この身を捧げる

無意識の捧身

花びらに集う虫のごとく


時には獣に畝を壊され

時には嵐に畦を壊され


秋になり

腰の高さを越えてきた稲には

花がつき稲穂が形成される


鳥達も繁栄する

米粒が形をなしてきた頃に

集団で食しにくる


人として意識があるときは

工夫を凝らして

案山子を作ったり

鳥避けを設けたり


刈り取った稲を干し

その間も天日に祈る


乾いた稲束を

脱穀機にかけて

米粒とし

唐箕でふるい飛ばして

籾粒とし

籾摺りにかけて

玄米とし


日々暮らす


稲や豆や芋が

繁栄する為に生まれ

働く有機物の塊である

わたしのからだ


花粉を運ぶ虫

花粉を運ぶ風

花粉を運ぶ私


湯気の立つ珈琲や

あるいは

茶をすすりながら

ひとつひとつの葉、茎、実、根を

解体するようにバラバラにしてゆく


そのままで

湯がいて

焼いて

揚げて

塩で揉んで

味噌を溶かして

発酵する日々


至る所に積まれた

種々

草々

虫々のおかげで

田畑は発酵する

発光する蛍にもなる


露に濡れる朝

日が高くなると

水分は空中に舞い踊り

蒸して日中を迎える


菌をはじめとした

様々な様々が活動し

所狭しと動き回り

産まれ

息絶え

土に還り

生命を全うしてゆく


生命で溢れる


零れ落ちた生命を

拾い上げては

積み重ねて

暮らす


農耕の概念

耕さずとも

世界は肥えてゆく


そしてその声を聞いた

美しい人々よ

この世界を越えてゆけ



日が陰ると

火を焚く


気が陰ると

火を焚く


貪るためだけに

火を焚く





踊ることを強く意識したのは原子力発電所のゲートを封鎖したときで、

世界中に放射性物質がばら撒かれてもなお開き直る政府官邸に嫌気がさしていた頃だった。


それぞれのメッセージを掲げて原子力発電所に立て篭もり、

これ以上は中に入らせまいとする警官隊や機動隊に二本指を立てて抵抗し、

数日に渡って踊り続けた。


バビロンに囲まれたディストピアに最接近したユートピア。


玄米が炊かれ、野菜スープと珈琲は湯気が立ち上り、

アンプラグドな楽器がそこらじゅうで鳴り響いた。


雨と圧力に屈しないための選択肢は踊ることだった。

再稼働の音が低くうねりを上げるまで幾日も踊り続けた。


踊らされる毎日はとてもつまらない。

独りでもいいから踊り続ける。





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