2013年10月21日月曜日

生命は

 


 生命は
 自分自身だけでは完結できないように
 つくられているらしい

 花も
 めしべとおしべが揃っているだけでは
 不充分で
 虫や風がおとずれて
 めしべとおしべを
 仲立ちする

 生命は
 そのなかに欠如を抱き
 それを他者から満たしてもらうのだ

 世界はたぶん 
 他者の総和
 しかし
 たがいに欠如を満たすなどとは
 知りもせず 知らされもせず
 ばらまかれている者同士
 無関心でいられる間柄

 ときに
 うとましく思うことさえも
 許されている間柄
 そのように
 世界がゆるやかに構成されているのは
 なぜ?

 花が咲いている
 すぐ近くまで
 虻の姿をした他者が
 光をまとって飛んできている

 私も あるとき
 誰かのための虻だったろう
 あなたも あるとき
 私のための風だったかもしれない

 吉野弘 「生命は」