みなさんの中には、こんどの戰爭に、おとうさんやにいさんを送りだされた人も多いでしょう。
ごぶじにおかえりになったでしょうか。
それともとうとうおかえりにならなかったでしょうか。
また、くうしゅうで、家やうちの人を、なくされた人も多いでしょう。
いまやっと戰爭はおわりました。
二度とこんなおそろしい、かなしい思いをしたくないと思いませんか。
こんな戰爭をして、日本の國はどんな利益があったでしょうか。
何もありません。たゞ、おそろしい、かなしいことが、たくさんおこっただけではありませんか。
戰爭は人間をほろぼすことです。世の中のよいものをこわすことです。
だから、こんどの戰爭をしかけた國には、大きな責任があるといわなければなりません。
このまえの世界戰爭のあとでも、もう戰爭は二度とやるまいと、多くの國々ではいろいろ考えましたが、またこんな大戰爭をおこしてしまったのは、まことに残念なことではありませんか。
そこでこんどの憲法では、日本の國が、けっして二度と戰爭をしないように、二つのことをきめました。
その一つは、兵隊も軍艦も飛行機も、およそ戰爭をするためのものは、いっさいもたないということです。これからさき日本には、陸軍も海軍も空軍もないのです。
これを戰力の放棄といいます。「放棄」とは「すててしまう」ということです。
しかしみなさんは、けっして心ぼそく思うことはありません。
日本は正しいことを、ほかの國よりさきに行ったのです。
世の中に、正しいことぐらい強いものはありません。
もう一つは、よその國と爭いごとがおこったとき、けっして戰爭によって、相手をまかして、じぶんのいいぶんをとおそうとしないということをきめたのです。
おだやかにそうだんをして、きまりをつけようというのです。
なぜならば、いくさをしかけることは、けっきょく、じぶんの國をほろぼすようなはめになるからです。
また、戰爭とまでゆかずとも、國の力で、相手をおどすようなことは、いっさいしないことにきめたのです。これを戰爭の放棄というのです。
そうしてよその國となかよくして、世界中の國が、よい友だちになってくれるようにすれば、日本の國は、さかえてゆけるのです。
(『あたらしい憲法のはなし』昭和22年 文部省)